今回ご紹介させていただくのは、男性型脱毛症(AGA)の救世主となるかもしれないAGAの新薬として期待されているセチピプラントという薬です。新薬といっても、2016年にアメリカの製薬会社に対し、セチピプラント(KYTH-105)を男性型脱毛症患者へ投与する臨床試験を認可したばかりですので、現在は新薬候補とでも言うべき成分です

AGAの経口治療薬はフィナステリドを有効成分とするプロペシアとデュナステリドを有効成分とするザガーロ、および、それらのジェネリック医薬品が人気ですが、いずれも、AGAの原因物質であるジヒドロテストステロン(DHT)を合成する5αリダクターゼという酵素の活性を阻害することで体内のDHT濃度を抑えて抜け毛を防ぐというものです。

加齢に伴い減少してくるテストステロンという男性ホルモンを補うために、テストステロンは男性ホルモン受容体により結合しやすいDHTという物質に変換されますが、DHTが毛乳頭細胞に存在する男性ホルモン受容体に結合することで毛髪の育成がストップしてしまうことで起こるのがAGAの特徴として広く認識されています。

ところが、AGAの原因物質はDHTだけではないということが発見され、プロスタグランジンD2(PGD2)という物質が注目されるようになり、PGD2とAGAの関係について様々な研究が行われています。


今回ご紹介させていただくセチピプラントという成分は、プロスタグランジンD2(PGD2)という物質が毛乳頭細胞に存在するPGD2受容体に結合するのを抑制する効果のある物質です。

AGAはDHTの増加によって毛髪が成長できなくなり成長期の途中で抜けてしまうことで起こるというのは常識のように考えられていますが、プロスタグランジンD2という物質も同じように抜け毛に関係しているということでしょうか?
PGD2が抜け毛を引き起こすメカニズムは現在研究が進んでいる最中で、DHTとどのような関係にあるのか?全く関係がないのか?といった具体的な話はこれからどんどん論文発表されていくと思われます
PGD2がフィナステリドやデュタステリドと別のメカニズムで抜け毛を引き起こすということならばこれまで治療効果が上がらないという人にとっては朗報ですし、何らかの因果関係があるとしてもセチピプラントという有効成分に副作用が少なければ大きなメリットになりますよね
全く関係しないということは無いように思いますが、セチピプラントが有効であるとなった時には抜け毛を抑えるメカニズムは異なっていることになるだけに期待は大きいのだと思いおます
ところで、プロスタグランジンという言葉ぐらいは聞いたことがあるのですが、プロスタグランジンというのはどんな物質ですか?
それでは、プロスタグランジンがどのような働きのある物質で、PGD2が注目されるようになった経緯を説明しましょう

 

プロスタグランジンとは第3のホルモン!?PGD2とAGAの関係は?

プロスタグランジンというのは人の体の至る所に存在し、発熱や痛みで体調の良し悪しや病気を認識できるようにしたり、血管を拡張させを血圧を低下させたり、傷ついた血管壁を修復するための血小板凝集を誘発したり、あるいは、出産時の子宮の収縮や胃腸の粘膜保護に作用したりすることもあり、体調をコントロールする上で重要な働きのある第3のホルモンとも呼ばれる物質です。

現在までに、働きの異なる11種類のプロスタグランジンが発見されており、プロスタグランジンD2は血小板凝集作用と睡眠誘発作用のあることが知られています。

プロスタグランジンの機能はすべてが解明されているわけではありませんので、新たな機能が出てきてもおかしくありませんし、PGD2が脱毛を促進するということも何か意味があるのかもしれません。

痛みを引き起こすなんて、体に良いどころか悪い働きではないのですか?
そういう場合もあるかもしれませんが、痛みに対して過敏になることで体に異常があることに気付くことができるということもあります。軽い痛みや発熱は体の異常を知らせる危険信号でもあるのです
PGD2は血小板の凝集と睡眠誘発作用ということで、これだけを見ると、脱毛症には関係なさそうに思われますが・・・
現在確認されている作用がその二つというだけで、PGD2には知られていない働きの可能性があるということかと思います

 

AGA患者の頭部にはPGD2が高濃度に存在する?!

PGD2がAGAを誘発する原因物質ではないかと注目されるきっかけとなったのが、2012年に発表されたアメリカのペンシルバニア大学の研究成果です。

「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」に発表された成果

  • AGA患者の頭皮において、毛髪が生えている頭皮に比べて脱毛している領域ではプロスタグランジンD2の合成酵素の活性が強くなっていた。
  • PGD2はPGD2受容体に結合することで機能を発揮しますが、PGD2受容体にはGPR44とPTGDRという2種類の受容体があり、PGD2がGPR44に結合する場合に抜け毛を引き起こすことが動物実験で確認された。

参照元:PubMed ”Prostaglandin D2 inhibits hair growth and is elevated in bald scalp of men with androgenetic alopecia.”
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22440736

この研究成果は、これまで主流となっていたAGA発症は男性ホルモンであるテストステロンが5-αリダクターゼによってDHTに変換され、そのDHTが男性ホルモン受容体に結合することで起こるというメカニズムに一石を投じる研究成果となりました。

もちろん、PGD2が脱毛につながるメカニズムを解明したという結果ではありませんが、少なくとも、PGD2がGPR44という受容体に結合することを阻害する成分であるセチピプラントがAGAの治療薬として期待されるということを意味しています。

ペンシルバニア大学の研究成果が、「セチピプラントという成分がAGAに効果があるのかどうか?」という臨床試験を実施するという流れにつながるというわけですね
もちろん、メカニズムの解明の研究は必要ですが、効果を確認できる臨床試験や副作用の有無についても検証する必要はあります。ただし、セチピプラントという成分はAGAとは別の目的で使用される医薬品として既に承認を受けている物質でもあります
ということは、副作用情報などもある程度はあるということですか?
AGAに使用するために摂取するセチピプラントの量がこれまで使用されていたものと同じであれば副作用も同じですが、それより高濃度ということになると新たな副作用に関する情報は必要にあるかもしれません

 

セチピプラントはもともと何の薬?副作用は?

セチピプラントは喘息治療薬、 抗炎症薬、プロスタグランジンD2受容体拮抗薬として認識されているようですが、日本では販売されていないみたいで未承認ということになります。

データが少なく不明な点多いのですが、セチピプラントのプロスタグランジンD2受容体拮抗薬という点に注目されたということは間違いなく、細胞にあるPGD2の二つの受容体の両方に作用することができるようです。

すなわち、AGA患者の脱毛している部位の毛乳頭細胞に存在するGPR44という受容体にセチピプラントが結合することによりPGD2の機能を抑えることにつながるというわけです。

参照元:KEPP セチピプラント
https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?dr_ja:D10326

セチピプラントのAGA治療薬としての臨床試験は2016年に承認されて開始して2年程度ですので結果はこれからかと思われますが、過去に行われた抗炎症薬としてのデータでは重篤な副作用などは現れなかったということです。
もちろん、AGAに対する臨床試験の結果ではありませんが、比較的副作用リスクが高いことが知られるフィナステリドやデュタステリドのことを考えると、期待は膨らむばかりです。

海外の育毛剤であるフィナステリドやデュタステリドの副作用については以下の関連記事において詳細に解説されておりますので、参考にしていただければと思います。

関連記事

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セチピプラントはフィナステリドやデュタステリドよりも副作用リスクは低くなりそうですね
AGA治療薬としての臨床試験次第ですが、過去に過去に承認されているという抗炎症薬としての副作用が無いということは期待できそうです
後は、効果ということですね
論文通りに行けば効果が無いということは無さそうですが、フィナステリドやデュタステリドと比べてどうなっているのかということも興味が持たれるポイントではないかと思います
ところで、PGD2が抜け毛を引き起こすメカニズムに関するその後の研究に関する情報はありますか?
それなら、2018年に公開された論文があるようですので、検証してみましょう

 

PGD2とAGAの関係に関する研究のその後は?

2012年にペンシルバニア大学の研究グループによってAGA患者の脱毛部位においてPGD2濃度が増加していることを発表して以来、毎年のようにPGD2とAGAの関係に関する研究論文が公開されています。
それだけ、PGD2がAGAに関与しているという発見が、注目度と期待度が高いという発見であるということを意味しているのだと思われます。

なかでも、2018年にInternational Journal of Molecular Sciencesで掲載された韓国の研究グループによって発表された論文では、PGD2がPGD2の受容体に結合することによって毛乳頭細胞における男性ホルモン受容体を活性化させることが示唆されています。

このことは、AGAの原因物質と言われているDHTが男性ホルモン受容体に結合しやすくなる、すなわち、脱毛が起こりやすくなるということを意味しており、DHTが増加した状態であってもセチピプラントによってPGD2による男性ホルモン受容体の活性化を抑えることによって抜け毛を抑制することができる可能性があると考えられます。

この研究成果からは、DHTが男性ホルモン受容体に結合するのをPGD2がサポートしているように感じられます
そういうことだと推測されます。毛乳頭細胞では抜け毛というマイナスの効果になってしまいますが、そもそも加齢ととともに不足する体内の男性ホルモン活性を補うためにDHTが合成されるのですから、合成されたDHTがより機能しやすいようにPGD2がサポートするのはというのは理にかなっています
最後は少し難しくなりましたが、PGD2の脱毛メカニズムの解明というのも、そんなに遠いものではなさそうに感じられました