2012年、アメリカのペンシルべニア大学よりAGAについて、非常に関心度の高い研究発表が行われました。

それまではAGA発症は5-αリダクターゼによって、男性ホルモンであるテストステロンがDHT(ジヒドロテストステロン)に変換され、そのDHTが男性ホルモン受容体に結合することでおきるという説が主流でした。

ところが、ペンシルべニア大学が発表した研究は、AGAの男性はPGD2の血中濃度が高いことを究明し、マウスのPGD2受容体にPGD2が結合できないように阻害すると、AGAが改善されることを確認したという内容です。

この研究内容から新薬が生まれてきそうな気配がします。

これから、AGA発症原因のもう一つの物質といわれるPGD2にスポットを当ててみたいと思います。

因みにPGD2とよく並行して比較されるのはPGE2。

PGD2とは逆で、覚醒をおこさせる物質として知られています。

この注目すべきPGD2がAGA発症に関与しているという研究を検証します。

参考URL:発毛研究,徐々に進展〜日経サイエンス2012年8月号より

http://www.nikkei-science.com/?p=25619

 

PGD2とは?

PGD2とは、プロスタグランジンD2の略名です。

プロスタグランジンとは?

不飽和脂肪酸の一つであるアラキドン酸から作られる生理活性物質です。プロスタグランジンはヒトの精液から発見され、それが子宮に作用することがわかったことをきっかけに他の臓器や部位にも広く分布していることが解明されていきました。

また、プロスタグランジンは色んな種類があり、それぞれ作用が異なります。

参考文献:改訂薬理学(講談社)

 

PGD2は自然な睡眠を引き出す物質として知られている

AGAの脱毛メカニズム解明において、PGD2は脱毛を誘発する物質ということですが、本来、PGD2は睡眠を誘発する物質として知られていました。

PGD2は哺乳類の脳の中で生成され、睡眠を司る受容体に結合し、睡眠を誘発させるアデノシンを放出します。

参考URL:睡眠覚醒調節の分子機構|研究内容|裏出研究室|筑波大学|国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)

http://urade.wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/ja/research/mechanism.php

 

睡眠誘発物質PGD2はAGAを誘発するという研究報告

冒頭にもありますが、PGD2がAGA発症メカニズムに関与していると、ペンシルバニア大で発表がありました。

AGAを発症し、脱毛が起こった部位はPGD2濃度が脱毛が起きていない部位よりも約3倍も高いという研究発表です。

この研究結果はPGD2を抑える薬があれば、脱毛の改善が期待できることを示唆しています。

プロスタグランジンの産生を抑える薬は抗炎症薬として、すでに日本でも適用されています。

 

抗炎症薬でAGA、薄毛改善は現実的ではない

プロスタグランジンができるのを抑えれば、AGAを改善するのであれば、プロスタグランジンができないようにする抗炎症薬などを使えばいいのではと考えてしまいますが、その使用は先ず日本では適用外です。

また、副作用もあるため、長期服用は健康を害します。

プロスタグランジンは発痛・体温を上昇させる物質

炎症が発生すると、発赤、疼痛、発熱などがおきてきますが、このような症状が出るのはプロスタグランジンが産生されることが原因です。

そこで、抗炎症薬といわれるステロイド薬やNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬:鎮痛解熱剤)が体内に入ると、アラキドン酸からプロスタグランジンを生成するのに必要なシクロオキシゲナーゼ(COX)を不活化させ、プロスタグランジンの生成を抑えます。

そして、熱が下がり、痛み、発赤を解消するという仕組みになっています。

プロスタグランジンの生成を抑える薬の副作用

代表的な薬にステロイド剤として、プレドニゾロン、非ステロイド抗炎症薬としてバファリンやロキソニンがあります。

市販の総合風邪薬の中に入っているイブプロフェンなどもプロスタグランジンの生成を抑えて、熱を下げたり、頭痛を改善したりします。

プロスタグランジンは炎症を起こす物質である一方で、胃の膜を保護する働きがあります。

そのため、プロスタグランジンの量が減少すると、消化器性潰瘍などの障害が起きやすくなります。

また、ステロイド薬であれば、それに加えて、長期服用で骨粗鬆症、血糖上昇などの副作用が出現しやすくなります。

もう一つの鎮痛解熱薬であれば、消化器性潰瘍は勿論のこと、腎機能低下を懸念しなくてはいけません。

特に腎臓病の既往歴がある人はこれらの薬の長期服用は慎重に、医師の監督下で行うべき薬と考えられています。

以上のように、日本で認可されているプロスタグランジン阻害薬でのAGA改善は、困難を極めます。

AGAの脱毛部位のみに特化されたプロスタグランジン阻害薬でも開発されればと考えるのですが、現在の段階ではまだ……と考えられます。

PGD2阻害薬のセチピプランはAGAの救世主になるか???

先程、現在の段階ではまだ……と書きました。確かにまだ市場に出回る段階ではありませんが、PGD2阻害薬として内服薬のセチピプラント内服薬(KYTH-105)が世に知られるようになりました。

その製造元であるキセラ・バイオーマステイカルズは、2015年に臨床試験実施の申請をFDA(アメリカ食品医薬品局)に提出し、臨床試験を開始しました。

PGD2の生成を抑制するセチピペラントは、ヘアサイクルの成長期を延長というか、正常にすることで、脱毛を阻止しようとします。

まだ、発売以前の段階、臨床試験の結果もはっきりと発表されていません。

とはいえ、臨床試験にまで進めたということは、いつなのかはわかりませんが、発売確実という前向きな状況であることは確かであると考えられます。

参考URL:炎症と鎮痛剤(NSAIDs)

http://kusuri-jouhou.com/domestic-medicine/NSAIDs2.html

参考URL:プロスタグランジンと子宮収縮作用、胃腸障害

http://kusuri-jouhou.com/domestic-medicine/NSAIDs4.html

参考URL:米製薬会社がAGA(男性型脱毛症)の新経口薬成分『セチピプラント/Setipiprant』の新薬臨床試験を開始!!

http://hatumou-life.com/setipiprant/

参考URL:Prostaglandin D2 inhibits hair growth and is elevated in bald scalp of men with androgenetic alopecia.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=22440736

 

フィナステリドやミノキシジルよりも副作用がない?

まだ、臨床試験の結果発表を目にしたわけではないので、理論的には予測できるでしょうが、それを実証づけるものはまだ、不明です。

「フィナステリドやミノキシジルの副作用が強いのでそのような局面からもセチピペラントは安全性が高く注目したい」という記事が目につきます。

安全性が高いと判定して市場に出ることを認可するのは、FDAです。

先にAGA治療薬として世に出たフィナステリドやミノキシジルもFDAが適正使用による安全性を認めたものです。

そして、FDAばかりでなく、時には石橋を叩いても渡ろうとしないぐらい慎重な日本の厚生労働省も認可した二つの医薬品です。

この二つの薬がAGA治療を前進させた功績は、大きいと思われます。

 

セチピペラントへの期待

セチピペラントがFDAに適正使用を認められた場合、フィナステリドやミノキシジルよりはたとえ安全性があったとしても、おそらくセチピペラントが治療薬として適合する人、しない人、あるいは、フィナステリドのほうが効果的という人もいるでしょう。

従って、セチピペラントの登場に期待したいのは、治療の範囲が広がる可能性がある、つまり、フィナステリドやミノキシジル無効例に効果を示すか?などです。

また、女性にもAGAがあると考えられていますが、フィナステリドは使用できないなど治療に制限があります。

セチピペラントはどうでしょうか?男性ホルモン云々ではないから、ひょっとして……と思いたいのですが……。

どういう結果がでるのか?待ち遠しいですね。

まとめ

PGD2は、睡眠を誘ってくれる物質でもあります。

AGA治療薬としてPGD2阻害薬が出た場合、睡眠障害が出現するのでしょうか?

また、プロスタグランジンの生成を抑えるということは、消化器にも大きな悪影響を与えることになるのですが、このあたり、副作用をFDAがどこまで考えているのかということにも注目していきたいものです。

おそらく、フィナステリドやミノキシジルのように副作用を最小限に抑えられる、AGAに特化した量が決定されるのだと思われます。

できるだけ、他の臓器や部位に影響を与えず、AGAには効果が出現する量を慎重に決められていくことでしょう。期待したいと思います。

そして、このセチピプラントの研究開発は、次の新薬開発にもつながるはずで、AGAの治療方法はこれからもどんどん、出てきます。

現在、無効な例でも将来は、逆転ホームランの可能性もあるかもしれません。