性同一性障害とは、自分の精神を支配している性と肉体の性が異なり、頭や心の中にある性に近付きたくて苦しむ病気のことです。
そして、自分の望む性に近付くために性ホルモンの投与を行います。

精神は男性なのに肉体は女性であるために苦しんでいる人には、男性ホルモンを投与します。

一方、精神は女性なのに肉体が男性であることに苦しんでいる人は、女性ホルモンを投与します。


女性から男性になろうとする人を「FTM」、男性から女性になろうとする人は「MTF」といいます。

とはいえ、男性ホルモンや女性ホルモンに副作用が無いわけではなく、後述しますが、場合によっては重篤な副作用に見舞われることもあります。

しかし、自分は男性なのに身体が女性であるために非常に苦しい思いをしているならば、副作用の危険性を受け入れてでもより男性に近付きたいという当人たちの願いに応えるべく、医師は男性ホルモンを投与します。

本当は男性(女性)なのに、身体が女性であるために男性(女性)として受け入れてもらえない苦しみは自殺者が出てしまうほどの苦しみです。

随分、前書きが長くなって申し訳ありません。
では、性同一性障害の人が性ホルモンの投与中で、薄毛に悩むのは男性ホルモン、女性ホルモン、どっちを体内に入れている人でしょうか?

もちろん、男性ホルモンですよね。
ちなみに、女性ホルモンには、髪の毛を増やす働きがあります。

男性ホルモンのテストステロンの投与で変化する身体や髪の毛

男性ホルモンのテストステロンの投与が続くと、女性の身体に男性化が始まります。

場合によっては、AGA(男性型脱毛症)も起こります。

女性にも微量ながらも男性ホルモンがありますので、当然、AGAになる女性もいます。

このようなことから考えると、微量の男性ホルモンでもAGAになるわけで、外部からもテストステロンが体内に入れば、AGAになる確率は当然上がっていきます。

また、髪の毛以外でも男性化が始まります。筋肉量が増えて身体がたくましくなり、ヒゲや体毛が濃くなっていきます。

話し声も低くなり、ニキビもできやすくなります。

当然ですが、女性特有であった月経もとまり、男性の陰茎に相当するクリトリスが大きくなっていくなどの現象がみられます。

乳房は男性ホルモンを投与しても、目立って小さくはならないといわれています。

FTMの男性ホルモン投与方法

医師によってもその患者さんによっても多少の違いはあるかもしれませんが、一般的には、FTMの治療は男性ホルモンのテストステロンの筋肉注射をします。

注射の頻度は、2~3週間に一回行いうことになります。

昔はテストステロンの内服薬の投与も行われていましたが、肝機能低下が見られるということで、安全面を優先して内服薬は使われなくなりました。

参照URL:ヘルスケア大学「どんな効果や副作用が?性同一性障害のホルモン治療」
http://www.skincare-univ.com/article/018475/

次に、FTMの人の頭の薄毛が始まった場合、プロペシアや男性用のミノキシジル製剤であるリアップは使用することができるのでしょうか?

結論を先にいえば、薬機法的にFTMの人の使用は認められません。
このあたりを少し深く掘り下げてみましょう。

 

FTMとプロペシア(フィナステリド)

プロペシアはテストステロンからAGAの最大原因物質といわれるDHT(ジヒドロテストステロン)に変換させる5-αリダクターゼという酵素の活性を抑え、DHTへの変換を阻止する薬です。

プロペシアの使用は、男性のみで女性の使用は禁忌となっています。

DHTはAGAにとっては不利益な存在であっても、男子の胎児にとっては性器の正常な成長に欠かすことができない重要なホルモンだからです。

そのため、妊娠中にDHT生成を抑えるプロペシアを服用することは禁止されています。

また、破砕したプロペシアに触れると皮膚からプロペシアの成分が体内に入る(経皮吸収)ため、作業中にプロぺシアに触れることがないように注意をする必要があります。

そのようなこともあって、身体は女性であるFTMの人に治療としての男性ホルモンの筋肉内注射で薄毛が始まった場合、治療薬としてプロぺシアを使用できるかどうかという問題にぶつかります。

薬機法の面から考えると適用外となるので、使用はできません。

また、男性ホルモンの投与はしていても、卵巣も子宮も除去していなければ生物学的にはまだ正真正銘の女性です。
妊娠の可能性はゼロではないので、男性になるための男性ホルモンの投与でAGAになっても治療薬にプロペシアを使用することには危険がついて回ります。

子宮や卵巣を除去しさらに男性に近づけるように男性ホルモン投与をしていたとしても、現在の状況では、男性ホルモンの投与が原因のAGAをプロペシアで治療する専門医は皆無に近いと予測されます。

なぜなら、FTMの男性ホルモン投与が原因のAGA治療法は、まだ、信頼できるエビデンスや安全性もない状態であり、確立されていません。

参照URL:薄毛治療Q&A|AGA・薄毛治療の【聖心毛髪再生外来】
https://www.mouhatsu-saisei.com/faq/

では、FTMの方が男性ホルモンの連続投与でAGAになった場合、リアップ(ミノキシジル)を治療薬とすることはできるでしょうか?

 

FTMとリアップ(ミノキシジル)

ミノキシジルは日本皮膚科学会AGA治療推奨Aランクです。ミノキシジルの作用機序は血管拡張による血流促進と細胞成長因子の生成によってAGAや薄毛を改善します。

プロペシアとは全く異なる作用機序で男性ホルモンとは無関係に薄毛を改善する働きを持っています。

男性ホルモンに関与しないミノキシジルですが、AGA推奨度AランクであるということはAGAを改善する力は認められているということになります。

また、女性にも使用可能です。

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男女の生理機能の差を考慮してミノキシジルの濃度は低いですが、女性用のリアップも販売されています。

なお、リアップは育毛剤としては発売されていますが、育毛シャンプーとしてのリアップも発売されています。

従って、FTMの方も女性用のリアップは使用可能です。

このとき、本来なら男性ホルモンの投与も行っていることから、女性用よりは男性用のリアップを使用したいところだと思います。

しかし、男性ホルモンを外から体内に入れて男性化を目指した場合のリアップの安全性が確立されていないため、リアップを販売できる権限を持つ薬剤師はFTMの方に対して女性用のリアップを販売することになります。

参照URL:日本薬理額雑誌日本薬理学雑誌
Vol. 119 (2002) No. 3 P 167-174「ミノキシジルの発毛作用について」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/119/3/119_3_167/_article/-char/ja/

 

FTMのAGA治療の将来の展望

現在、少しずつではありますが、性同一性障害に対する理解が深められ、望む性への変換のサポートが医学、行政の立場からも始まっています。

そのようなことから考えていくと、FTMの方のAGAや薄毛治療法もやがては確立されていくのではという将来展望も期待できると予測します。

参照URL:日本精神神経学会「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」
https://www.jspn.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=84

 

まとめ

この記事の内容まとめ
  • 性同一性障害について思うこと
  • FTMの方の男性ホルモン投与によるAGA
  • FTMの方の男性ホルモンの投与方法
  • FTMとプロペシア 男性ホルモンを体外からの補充という特殊状況において
  • FTMとリアップ 現在はまだ、女性としての使用という点から考える
  • FTMに対するAGA治療の将来の展望

現在、性の多様性が認められつつありますが、細分化された性への対応の分、医学的にも壁に突き当たっています。

その壁の一つにFTMのAGAがあります。性差の分断で行われていた治療に境界線が薄くにじんできています。

しかし、この医療の壁はさらに治療開発への踏み台となると考えます。

おそらく、現在もこの分野の研究や治療開発がすすめられていると予測します。また、これらの研究や治療開発が医学の進歩に貢献するはずと期待せずにはいられません。