円形脱毛症というと思い浮かぶことは何でしょうか?

10円ハゲ、ストレスなんていう言葉が真っ先に出現すると思います。

全ての毛髪はもちろんのこと、眉毛、陰毛、体幹、手足など体に生えた全ての毛が無くなるのも円形脱毛症だと思っている人は少ないのではないでしょうか?

10円ハゲ1~2個できるぐらいのものであれば、無治療でも自然治癒することもまれではありません。いつの間にか完治していることも多いです。

ここではそんな軽症で終わる円形脱毛症ではなく重症で、メンタルのフォローも必要な全頭型、汎溌型円形脱毛症にスポットを当ててみたいと思います。

円形脱毛症は必ずしも円形ではない

円形脱毛症が男性型脱毛症と異なるところは、男性型脱毛症が頭頂部や前頭部の毛髪がだんだん薄くなっていくのに対して、円形脱毛症はある部位がゴソッとまとめて毛髪が脱落します。

何故、そのような抜け方になるのでしょうか?

円形脱毛症はヘアサイクルにおいて成長期にあった毛母細胞が一度に委縮して死んでしまうため、脱毛が一気に始まります。

また、円形と病名がついていますが、脱毛する形は必ずしも円形だけではありません。色んな形になり、脱毛の部位も1~数か所と様々です。

「単発タイプ」

最も多くみられるタイプで、1~2個で、大きさは1~数センチです。

「多発タイプ」

数十か所もできてしまうことがあります。最初は単発だったのが、次第に数を増やしていく場合、いきなり数十か所多発してしまうことも。広範囲の脱毛につながりやすい現象です。

「蛇行タイプ」

側頭部位の生え際,後頭部あたりの抜けていく形が蛇行して帯状になっています。

「全頭タイプ」

前述した多発タイプがさらに進行して、頭に生えた全ての毛髪が脱毛するタイプとまばらに脱毛が進行し、最終的には頭全体の頭髪が無くなります。

円形脱毛症のうちで約1割の人がこのような重症な円形脱毛症になってしまいます。

「汎発タイプ」

毛髪だけでなく、眉毛、腋毛、。髭、陰毛など全身の毛が抜ける、円形脱毛症の中で一番重症のタイプです。

 

円形脱毛症を発症するには?

円形脱毛症とストレスの関係を昔からよく言われており、毛髪についてかなりのことが解明されてきた現在においても、そう考えるのはあながち間違いではないと考えられます。

但し、円形脱毛症を発症させる危険因子の一つに上げることができますが、円形脱毛症の直接な原因ではありません。

 

円形脱毛症は臓器特異性自己免疫疾患

まず、免疫反応について解説します。

自分の体にウイル、最近などの異物が侵入してくると、体内に存在するリンパ球が抗体を作り出し、それらの異物を攻撃し始めます。これが通常の免疫反応ですが、何らかの原因で自分の体内のものなのに異物として認識してしまい、攻撃を始めることがあります。

このような現象を自己免疫疾患と呼びます。

円形脱毛症の場合、毛の細胞のみを攻撃し、それ以外の臓器などには攻撃しません。

 

脱毛部分の毛包に炎症が起きている

円形脱毛症の患者さんの脱毛部位の毛包やその周辺は炎症が起きていて、そこに多くのリンパ球が集まっています。

リンパ球の中には、免疫反応を促進、制御するもの両方存在しますが、そのバランスが乱れると、自分自身の細胞などを攻撃し始め、円形脱毛症を発症しやすい温床を作り上げてしまうと考えられています、

 

円形脱毛症を好発しやすい年齢、遺伝

かなり年齢幅画広く、子供から大人までですが、病院を受診する年齢は30歳代が一番、多いと言われています。15歳以下が全体の2割程度おられます。

そして、遺伝との関連ですが、円形脱毛症のうち,3~4割は遺伝的素因があると言われています。

自己免疫性の甲状腺疾患、膠原病、重症筋無力症のような自己免疫疾患を持った患者さんが円形脱毛症を発症しやすいと言われています。。

また、アトピー性皮膚炎の患者さんも円形性脱毛症を発症しやすいと考えられています。特に若い円形脱毛症の患者さんの中には、アトピー性皮膚炎も罹患していることもよくあります。

 

円形脱毛症の治療法

この病気は軽症から重症まで様々です。脱毛部位が1,2か所であれば、自然治癒も珍しくありません。軽症の場合が一番、ストレスが関与していると考えられます、ストレスの改善だけでも治ることが多いです。

しかし、蛇行タイプや広範囲、体毛にまで脱毛があるような場合は、難治性です。ストレスをきっかけに脱毛がおきるようになったとしても、ストレスから脱却するだけでは簡単に治らないようです。

 

ステロイド剤

重症の円形脱毛症が自己免疫疾患であることから、免疫抑制効果画あるステロイド剤が選択されます。外用剤、注射、内服薬と色々ありますが、症状に合わせて使い分けていきます。

脱毛の進行が速い場合は、ステロイド内服薬で治療します。

ただ、非常に治療効果はありますが、胃障害、骨粗鬆症などの副作用もあり、長期間続けることは困難です。そして厄介なことにステロイドの内服を中止すれば、再び毛が抜け始めるのです。

広範囲の円形脱毛症を発症初期は、ステロイドパルス療法が良く効きます。短期間で大量のステロイド剤を点滴するのですが、この方法であれば、あまりステロイド剤の副作用は出ないと言われています。せん。ただ、この療法を受けるには入院が必要で、また、小児以下は適応外です。

 

液体窒素療法

脱毛部位に綿棒等に液体窒素を含ませ、その部位に刺激を与える治療法です。狭い範囲の脱毛部位に適しています。

また、この治療法は痛みを伴うので、小児以下にこの治療法を実施することは原則的にありません。

 

PUVA療法

紫外線を照射する治療法です。紫外線を照射すると、リンパ球の乱れた動きを抑えることが可能になり、発毛を促すという方法です。

しかし、発毛したとしても、紫外線照射ができなくなるので、再び脱毛が始まるのが欠点です。

その他にもドライアイス圧低療法や局所免疫療法などがあります。薬剤面では、アトピー性皮膚炎の治療薬としても使われる免疫抑制剤、末梢の血管を拡張させる外用剤があります。

漢方療法、変わったところではレーザー療法などもありますが、その効果についてはまだはっきりと確証がありません。

 

治癒の可能性

アトピー性皮膚炎や自己免疫疾患などにかかったことがなく、脱毛範囲が狭い、発症してから一年以内であれば、8割の患者さんが一年以内に回復されると日本からの報告があります。

また、欧米諸国からは、3~4割の患者さんは毛髪の回復の可能性が期待されますが、1~3割までは全頭タイプなどに進行し、その回復の可能性は1割も満たないと報告があります。

 

アレルギーの有無

喘息やアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患を持つ人に円形脱毛症の発症率が高いと言われています。

アレルギー性疾患が関わっていると、円形脱毛症も単発型に留まらず、だんだん汎溌型のような重症化傾向が強くなり、治癒が困難になるケースが多くなります。

では、元来、アレルギーをもたない人が重症の円形脱毛症になることはあるのかということになりますが、それはあります。免疫力の増減は、色んな原因が考えられていますが、ストレスも原因の一つとなります。

強いストレスが原因で、今までは正常に働いていた自己免疫機構が乱れるということは十分に考えられます。又、元々、アレルギーを持っていて、強いストレスが加わって円形脱毛症を発症することもあります。

本当にストレスが原因であれば、そのストレスが取り除かれれば、早ければ、半年以内で治ることもまれではありません。

ただ、治らないことも多く、ここでは重症化した例を取り上げてみたいと思います。

 

円形脱毛症の重症化は精神面のフォローも必要

頭の毛が全て無くなり、眉毛、睫毛までが無くなるわけですから、どうしても、外見上で差別やいじめなどを受ける状況になることは少なくありません。

筆者の薬局に来られる患者さんの中に重症の汎溌型円形脱毛症の患者さんがおられます。

この方についてお話をしてみたいと思います。

 

重症の脱毛症になって以来、この15年間、就職ができず、農業をしながら生計を立てておられます。現在、59歳です。

薬は円形脱毛症にも適応されているフロジン液とアレロックという第二世代抗ヒスタミン薬です。

別にアレルギー体質ではありませんが、重症化する円形脱毛症は自己免疫異常が考えられるということで、主治医はアレルギーを抑える薬を処方しています。

 

この方は20代で結婚されましたが、この時は円形脱毛症の兆しなど全くなく、毛髪はフサフサとしていました。仕事も順調で二人の子供と妻に囲まれ、順風満帆の人生を歩んでいるようにみえました。。

40歳代に離婚するわけですが、ここから暗転した人生へと変わっていきます。子供は患者さんと妻が一人ずつ連れて別れましたが、その後もある会社の支店長となり、仕事も楽しかったと語るほど順調でした。

しかし、家に帰っても食事の支度をする者はおらず、だんだん私生活が荒れていき、それが仕事にも悪影響を及ぼし、営業成績が低迷していきました。そのころ、理容院で500円玉程度のハゲが分かりましたが、一時的なものでそのうち、毛も生えてくると思って放置していました。

ところが、治るどころか、あちこちにハゲができはじめ、そのままでは営業という仕事に支障が出るため、かつらをかぶって仕事に出かけました。とうとう、睫毛も無くなりました。眉が無ければ、すごい強面の顔になってしまいました。営業に支障をきたすので、100均ショップで眉墨を購入し、眉を描いてから、仕事先に出向きました。

しかし、仕事先でも異様に見える顔のせいか、だんだん、受け入れられなくなりました。

また、社内でも、自分の方から辞めるように仕向けてきました。

ここまで脱毛が進行する間、無治療だったわけではなく、色んな病院に行き、サプリメント、漢方薬とあらゆることを試みましたが、どれも効果なく、会社をやめる頃にはすね毛、陰毛まで脱けてしまいました。

会社を辞めても、失業保険がある間に次の仕事を探していばいいと軽く考えていまし

果敢にも、就活には、自分の全てを見てもらうつもりでかつらをかぶらずにやり通しました。

それは、カツラをかぶって採用され、後で煙たがられるよりはましと言う気持ちがあったからです。どんな仕事もこなせる自信があったので、どこかに拾ってもらえるだろうと楽感的に考えていました。

しかし、現実はその反対でした。自分と話をする前の段階、自分の容姿を見た習慣から、会社側の面接員が拒絶の表情をしていました。

結局、就活した会社は全て不採用となりました。

 

筆者の薬局に来られるようになったのは、この時期です。大きな病院に変わられたのをきっかけに筆者の薬局に処方箋を持ってこられるようになりました。

初めて来られた患者さんとは念入りに服薬指導を行いますが、上記の話しはこのときにお聞きしました。

薬局に来るとき、患者さんは毛糸の帽子を無雑作にかぶっておられるだけです。就活ですごく嫌な思いをした患者さんは、「もう平気」と言われるまでに強くなっておられました。どこにも就職できなかったので、慣れない農作業をして収入を得るしかなかったと当時を振り返っておられます。現在は農業だけでは食べていけないので、午前中は給食センター、午後はホームセンターへと、パートで仕事をしておられます。

 

現在、飲んでいる薬も効果はありません

「薬、止めようかな」とも言われます。それも、治療の一つだと筆者も考えます。

ただ、次で紹介する治療はまだ試されていないので一度、やって見られてはとおすすめしたのですが、費用が高いと言われます。

思うのに、費用が高いからというのは表向きの理由であって、実際のところ、60歳という年齢がそのように思わせるのか、「これでもういい。これで生きる!」と口にこそ出されませんが、そのようなさっぱりとした表情をされているように感じます。

 

筆者の経験

実は筆者は乳がんの再発を経験しており、抗がん剤による全頭ハゲを経験しています。抗がん剤をやることになった筆者に主治医は「次は、髪の毛が多くなる」と励ましました。

確かに、生え変わった髪の量は増えました。

そのことをこの患者さんにお話ししてみました。

 

抗がん剤は副作用が強いし、私自身、副作用に苦しい思いをしましたが、この高がん剤使用後の増毛作用を重症の円形脱毛症に使用できるといいですね」

脱毛させるだけの作用になるように濃度を薄くして使用するということは、できるのだろうかと思った訳です。

リアップの成分であるミノキシジルが元は高血圧治療薬で、その副作用である多毛症を利用し、AGA治療薬ができたわけですから……。

ただ、細密に調べてみたところ、抗がん剤で全て抜け、その後、増えるどころか元通りにならなかったという例も何%かあったようです。

また、患者さんも筆者の話を主治医にしてみたところ、「藁をもつかみたいような患者さんにはそこまでしてあげてみたいけど、適応ではないし、あまりにもリスクが大きすぎる」と説明されたようです。患者さんの主治医も抗がん剤使用後、生えてくるとき、増えて生えてくる人が多いということはご存じだったようです。