AGA(男性型脱毛症)以上に深刻な重度の円形脱毛症。

頭にできた10円ハゲが数個内という軽度であれば、自然治癒も可能ですが、進行して、頭だけでなく、全身の毛という全ての毛が抜ける重度の円形脱毛症の完治は、非常に困難と言われています。

また、見た目の問題もあって、就職や結婚などにも支障をきたすことも少なくないと言われています。

このような重度の円形脱毛症の方に朗報となるような研究発表がアメリカでありました。

ある抗がん剤やリウマチ治療薬に発毛効果があるということがわかったのですが、円形脱毛症の治療薬として世に出るには、もう少し時間がかかるようです。

とはいえ、円形脱毛症の決め手となる治療薬は皆無に等しかったということもあり、この研究発表は非常に嬉しい報せです。

このような研究は毛髪科学の進展にも結び付き、AGAへの改善策にも光明をもたらすものと確信いたします。

どのように抗がん剤やリウマチ治療薬が脱毛症にこうかがあるのか検証してみましょう。

これから小難しい語句が出てきますが、理解していたほうが役に立つと思われる語句は、後で説明します。

ここでは、それよりも完治が非常に難しいとされている重度の円形脱毛症の未来の治療法にスポットを当ててみますので、理解するというよりは、トンネルの先に見えてきそうな光を感じていただくだけで十分です。

コロンビア大学のアンジェラ・クリスティアーノ博士の研究

2014年に論文が、発表されました。

抗がん剤やリウマチ治療薬として使用されているJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤に発毛効果がありと確認されました。

無毛になるほどの重度の円形脱毛症は、免疫機能の異常が原因と言われています。

免疫反応とは本来、外部の異物を排除して体を守ろうとするシステムですが、円形脱毛症等の自己免疫疾患の場合、自分のものなのに、それを異物として認識し、攻撃して排除しようとします。その結果、不利益な症状が出現してしまうわけです。

円形脱毛症で言えば、「自分の毛」を異物として感知し、排除しようとして脱毛が起きるわけです。

大雑把な言い方になりますが、要するにこの研究はこの異常な免疫反応を低下、抑制することで発毛機能の回復を実現して見せたということになります。

 

脱毛をおこさせる犯人を発見

まだ、脱毛の症状が出ていないマウスのCTLといわれる細胞傷害性T細胞を体内から取り出し、その後、CTLをそのマウスに投与したところ、何と、毛が抜け始ました。

ということは、犯人はCTLであることがわかりました。

次は、この細胞からどんな物質が分泌されているかを調べ、炎症性物質であるIL-2やIL-15などであると特定しました。

実際、そのような物質の分泌を抑えると、脱毛が止まりました。

このような実験結果から、CTLが炎症性物質を分泌させ、毛根にある発毛の源である細胞を破壊して脱毛がおきると博士は考えました。

 

]IL-2などの炎症性物質のシグナルが伝わらないようにすれば脱毛はおこらない

シグナルが伝わらないようにすればいいということがわかり、伝わらないようにする薬が現在、血液のがんやリウマチの治療薬(JAK阻害剤)として使用されています。

これらの薬を使って、発毛効果を調べました。

まず、マウスでこの薬の効果を確認しました。この薬をマウスに投与、あるいは脱毛部位への塗布で全例に脱毛ストップ、発毛効果が得られました。

次はヒトへの効果の確認ですが、3人の円形脱毛症患者に治験をしたところ、3~5カ月で完全に発毛効果が得られたという素晴らしい結果となりました。

クリスティアーノ博士の論文には、発毛しはじめ、円形脱毛症を発症する以前の状態に回復していく過程の写真も添付してあったようです。

参考URL:円形脱毛症が本当に治る(Nature誌オンライン版掲載論文)

参考URL:Have scientists cured baldness? New drug reveals regrowth in mice in ten DAYS

 

スタンフォード大学でも効果を確認

2016年、10月に先に紹介した論文と同じような効果を確認したスタンフォード大学の研究論文の発表がありました。

スタンフォード大学では、コロンビア大学よりも大規模な治験が行なわれました。

 

研究内容

半年以上、脱毛が続いた70人を対象にして治験が行なわれました。

トファシチニブというJAK阻害剤を2回/日、内服して3か月後、頭の発毛状態を調査しました。

 

頭部のみに円形脱毛症の症状があった場合に効果あり

頭部のみに脱毛が見られた人の70%、また、全身に脱毛が見られた人の10%に症状の改善が見られたということです。

この結果から、この治療法はとりあえず、頭髪のみに限定された円形脱毛症の場合に適応されるとしています。

 

治療を始める前の段階で予後を推測できるかどうかも調査

この治療にすぐ反応、反応が遅い、無反応とグループに分け、治療開始前の皮膚の遺伝子で異なる遺伝子を探し、それらのデータの参照などから治療に有効かどうかの予測の確認も行っています。

 

治療開始は早ければ早いほどいいと結論

治療開始が遅れるほど、治療への反応が遅れることも解明しています。

 

円形脱毛症の理想的な治療方法

円形脱毛症の症状が他の部位にはなくて、頭部に限定されていた場合、少しでも早く遺伝子検査を行って予後を調べ、JAK阻害剤(トファシチニブなど)の内服治療を始めれば、円形脱毛症改善の効果が期待できるということのようです。

 

問題点

薬を中止すると、約2か月で再び、毛が抜け始めるので、内服治療は続けなければいけないということです。AGA治療薬のフィナステリドやミノキシジルと同じです。

スタンフォード大学の治験で薬の安全性は確認されましたが、3か月以上の内服治療による安全性はとなると、不明であり、長期内服による副作用の出現などまだまだ、問題点はあります。

しかし、ここまで効果が見られたということは、円形脱毛症に効果ある治療薬の出現も遠い未来ではないことを物語っています。

参考URL:円形脱毛症治療薬治験(10月5日Journal of Clinical Investigation/Insight 掲載論文)

http://aasj.jp/news/watch/5899

 

語句の説明

次は前述した語句の説明です。

JAK阻害剤

JAKは、janus kinaseの略名で日本語では「ヤヌスキナーゼ」といいます。

炎症は免疫機構の異常によって出現します。IL-2などの炎症性物質がシグナルとなって炎症を起こすのですが、それを実現させてしまう酵素がJAKです。

例えば、関節リウマチという本人の関節骨膜を異物とみなして、攻撃してしまう病気がありますが、この場合もJAKが働き、炎症性物質のシグナルを出動させることが発症の原因です。

従って、IL-2などの炎症性物質のシグナルが伝達されないように、JAKの働きを抑えなければいけません。このような抑制する働きを持つ薬剤をJAK阻害剤と言います。

関節リウマチのJAK阻害剤は、前述した「トファシチニブ」(商品名:ゼルヤンツ)です。

骨髄線維症という血液のがんの抗がん剤として使用されている「ルキソリチニブ」もJAK阻害剤で、コロンビア大学などの円形脱毛症の研究でも使用されています。

 

JAK阻害剤は免疫抑制剤

免疫抑制剤ということは、その疾患を治療する一方で、感染症にかかりやすいということです。

もし、脱毛症の治療薬として世に出るのであれば、フィナステリドやミノキシジルのように本来の疾患よりは使用量を下げる、極力、毛髪のみに影響が出るように量が決定されることでしょう。

それでも、前立腺肥大症や高血圧のような慢性疾患の薬ではなく、がんやリウマチの治療薬という、非常に重篤な病気に使用する薬だけにさらに慎重に考慮されると思われます。

この薬が世に出るのはもう少し時間がかかるかもしれません。

ただ、このような研究発表がされるたびに、未来に希望を持つことができます。

とにかく、円形脱毛所に限らず、脱毛症は早めの対処が、予後を良好にするカギを握っていることが確実に判明しました。

即、実行あるのみです。

 

CTL:細胞傷害性T細胞

キラーT細胞とも言われています。

リンパ球T細胞の仲間で、ウイルスに感染した細胞や移植された細胞、がん細胞などの異物を破壊しようとする細胞のことです。

 

IL

インターロイキンといいます。

たん白質の一種で、リンパ球などから分泌され、免疫機構の調節に関与しています。

 

まとめ

毛髪の仕組みはまだまだ未明な部分が多いのですが、それは、これからもたくさんの新しい治療法が発見される期待がもてるということでもあります。

明るい未来を感じていても損はないと思います。